言葉で伝える大切さ

ある日のAさん。早く登園をして、すぐ支度をした後、何か言いたそうに担任の周りをウロウロし、じっと見つめてきて何か声を掛けて欲しそうにしていました。

担任はすぐに”あ、機織りがしたいんだな”とピンときました(前日のお帰りの会で、そのお仕事の紹介をしていて、「やりたい人は、早く来て先生に『やりたい』って言ってね。やり方を教えるからね。」と伝えてありました)。

担任から「やりたいの?」「どうしたの?」と聞いてあげるのは簡単でしたが、Aさんはもう十分に自分の気持ちを言葉で伝えられる人であるし、前日に「先生に『機織り、やりたい』って言ってね」と、どういう風に言えばいいかも伝えていたので、敢えて声を掛けずに様子を見ました。

・・・結局その日は言えずに終わってしまいました。次の日も同じ・・・でもやりたそうに大人に無言のアピールはしていました。

なので、全く別の時間でお友達と遊んでいる時に、何かの話の流れの中で、「やりたい事があった時は、『やりたい』ってハッキリ言った方がいいよね」と大人が言ってみたら、Aさんは何かを考えているようでした。

そして後日、やっと勇気をだして「先生、機織りがやりたい」と自分から言え、担任も「分かったよ、教えるよ。ちゃんと自分で言うのも大事だね。」と話し、念願のお仕事が出来たそうです。


Aさんの事柄は、かなり時間を掛けた出来事でしたが、子ども達のこのような姿が増えてきているように感じます。

普段のおしゃべりはできるのに、肝心な所で・・・例えば困っていたり、何かしたい時に、自分で言うのではなく、大人に無言のアピールをして察して欲しがり、本当に大事な所で自分の心と言葉を使わずにいてしまう事は、とても勿体ないと思います。

大人は、子どものそのような姿を見ると、大体言いたい内容が分かるので、大人もついつい「○○したいの?」「△△なの?」と先回りして言ってしまいがちですね。

そういう時、園では察し過ぎないように気を付けるようにしています。
「どうしたの?」と聞いたり、「はっきり言わないと、分からないよ」と伝えて、自分で言葉を使って言うように、関わり方を意識するようにしています。


たとえば、園でも色々な場面があります。

何かしたい時

『・・・(無言)』
  ↓
「○○したいってハッキリ言うといいよ」「黙っていたら分からないから、ちゃんと言ってね」

『機織り・・・』
  ↓
「機織りが、どうしたの?」ここを言わない人も多いです。

忘れ物

『(泣くだけ)』
  ↓
「泣いていても分からないよ。コップを忘れたの?じゃあ、そう言うといいよ」

『忘れた』『コップない』
  ↓
「わかったよ。それで?」ちゃんと言えそうな人には最後まで聞きます。
  ↓
『コップ貸してください』
まだ小さい人や分からない人には「『コップ貸してください』って言うといいよ」と教えて、言うように促します。

助けてほしい時

『できない!』
  ↓
「どうして欲しいの?」
『教えて』『手伝って』『○○して』など、具体的に話すように教えたりして、言うように。

まだ小さい人や、どうやって伝えればいいか分からない人には、「それで?」と放っておいては難しいので、「こういう時は○○って言うといいよ」と具体的に教えて、「じゃあ、言ってごらん」と必ず言うように促します。


子どもが何かしたい時、困っている時に、いつも誰かが手を差し伸べてくれるとは限りません。受け身で待つのではなく、自分の気持ちを言葉で表現する事が大切です。それには、日頃の経験が大きく影響してきます。

何でも大人が先回りしてしまうと、いざ子どもが何かに直面した時(ex. 忘れ物をしたり、何かに失敗したり)に、黙って固まってしまうだけか、ただただ泣くだけになってしまいがちです。

お友達同士でも同じです。自分の気持ちをハッキリ言わないままで、周りの子達がどんどん遊びを進めて、どうにもならなくなると、「何でそういう事をするの!?」「もういいよ!!」と怒ったり、泣いたりして、周りの子も「?」となってしまう事もあります。

あえて言葉で言わせることの大切さに、大人ももっと意識をもってみましょう。

(そらほし便り)